平成27年から増税となる相続税。節税の鍵は、「小規模宅地等の特例」を上手く使えるか否か。「小規模宅地等の特例」とは、相続税の計算上、亡くなった人(被相続人)が保有していた宅地の評価を大きく減額してくれる特例です。本特例が使える宅地は、自宅や事業や貸付用などに使われていた土地。このうち、最も多くの方に関係しそうなのは自宅の土地です。
自宅の土地に本特例が適用できれば、相続税の計算上、240㎡(平成27年から330㎡)までの部分について評価を80%減額してもらえます。土地が3,000万円なら600万円、1億円なら2,000万円に減額してくれるわけですから、大きな節税になります。あるいは、税金がまったくかからなくなるかもしれません。
しかし、本特例が適用されるのは一定の要件を満たしたときのみ。一番のポイントは、『誰がその土地を相続したのか』という点です。被相続人の自宅の土地については、以下の3パターンに分類されます。
①被相続人の配偶者が相続した場合
無条件で本特例を使えます。
②被相続人の同居の親族(配偶者以外)が相続した場合
相続税の申告期限までこの土地の所有と居住を継続したときに限り、本特例を使えます。申告期限は相続開始日の翌日から10ヶ月以内。その間は売却してはいけないということです。
③被相続人の配偶者や同居親族以外の親族が相続した場合
被相続人に配偶者も同居親族もいない場合に、相続開始日の直前3年以内にマイホームに住んだことがない別居親族がこの土地を相続し、相続税の申告期限まで所有を継続すれば、本特例が使えます。賃貸住まいや会社の寮住まいをしている子が親の自宅を相続したような場合です。既にマイホームを持ってそこに住んでいる子では特例が使えません。
②③のケースでは、要件を知らずに申告期限前に売却してしまうケースも散見されるため、注意しましょう。
相続税課税の可能性がある方は、遺言を作る際にも気をつけてください。自宅の土地は『誰に相続させるか』で本特例の適用可否が決まりますから、その点を念頭に置いて相続させる相手を決める必要があるかもしれません。
また、自宅が二世帯住宅だった場合、現行では建物内部で互いに行き来できる構造でなければ同居とはみなされず本特例の対象になりませんが、平成26年からは構造に関わらずOKとなります。二世帯住宅をお持ちの方にとっては朗報です。
ただし、気を付けたい点が2つあります。
1点目は、二世帯住宅で親子が区分所有登記をしている場合、子が居住の部分には今後も本特例が適用されないということです。専有面積が親子同一なら本特例の恩恵は半分しか受けられず、1億円の土地は6,000万円までしか下がりません(1億円-1億円×1/2×80%)。二世帯住宅の取得にあたって子が一部資金を負担した場合は、本特例の最大活用を第一に考えるなら、親子区分所有登記ではなく共有登記が有利です。
2点目は、二世帯住宅に住んでいた子供世帯が、その後転勤にともなって家族で転居していたようなケース。転居している間に親が亡くなった場合、親子同居とはみなされず本特例の対象外となってしまいます。子が家族を残して単身赴任していた場合は、引続き子の自宅は家族のいる二世帯住宅であると認められ特例対象となります。節税を目指すなら、単身赴任をお勧めすることになるでしょう。
更に、現行では、終身利用権付きの老人ホームで亡くなると、老人ホームが終の棲家であって元の自宅はもう自宅とは認められないため、小規模宅地等の特例の対象外です。これも税制改正により、平成26年以降は元の自宅の土地に本特例を適用することが可能となります。ただし、老人ホームに入所した後、亡くなるまでの間に元の自宅を他人に貸したりしてしまうと、特例対象から外れてしまいます。ご注意ください。
以上、自宅の土地に小規模宅地等の特例を適用させるための要件について概略をみてきましたが、かなり複雑です。また、事業用や貸付用の宅地への特例適用の要件は自宅とはまったく異なりますし、宅地が複数ある場合に「どの宅地から優先的に特例を適用させるのが最も節税に繋がるのか」という判断も簡単ではありません。
従って、素人判断は禁物です。特例適用の可否については、必ず専門家に判断を仰いでください。その上で、現状が適用不可であれば、何が障害になっているのかを見極めて早めに対策を講じておきましょう。