一、遺言は、法律の定めに従った要式で作成されることが求められており、法律で定められた要式を欠いている場合は無効とされてしまいます。
遺言には大きく分けて普通方式遺言と特別方式遺言があり、一般的に行われているのは普通方式遺言です。
普通方式遺言には、自筆証書遺言、公正証書遺言、秘密証書遺言の3種類があり、今回は自筆証書遺言と公正証書遺言についてお話ししたいと思います。
二、自筆証書遺言
自筆証書遺言は簡単に作れる反面、法律で定められた要式を欠いている場合は無効となってしまいます。
<自筆証書遺言の要件(民法968条1項)>
・書き間違えのないように全文を手書きで作成すること(ワープロやパソコン不可)
・日にちが特定できるように年月日を書くこと(例:平成〇年〇月〇日)
・加除訂正は決められた方式に従うこと
・フルネームで署名すること
・必ず押印をすること
※このように書き方のルールがあるので、作成した自筆証書遺言が上記要件を満たした有効なものかを弁護士等の専門家に確認してもらうことをお勧めいたします。
三、1 公正証書遺言
公正証書遺言は、公証人という元裁判官などの法律の専門家の立会いのもと作成されるため、無効とされにくいですが、遺言能力が否定され、稀に無効とされるケースがあります。
遺言するには遺言時点で「遺言能力」という能力が必要とされています。
遺言能力とは、自分の書いた遺言書の内容を理解し、その遺言の結果どのような効力が生じるかという判断ができる能力ということになります。
遺言能力の有無の判断の基準としては、A精神医学的観点、B遺言書の内容(複雑か簡単か、動機として自然か)などというような要素から判断されます。
Aについては、認知症の遺言能力の有無についての目安として、「長谷川式簡易知能評価スケール」というものが利用されるケースが多いです。この検査は30点満点で、大きな目安としては20点以下の場合には遺言能力に疑いが生じ、認知症であることが確定している場合は20点以上で軽度、11~19点で中等度、10点以下で高度と判定されます。
Bについては、そうするのが遺言者の意思として普通かどうか、合理性があるかどうか(例えば長年同居して遺言者の面倒を見てくれた息子に財産を譲るのは自然ですが、全く交流のない他人に財産を譲るのは不自然です)という点が判断材料になります。
遺言能力が否定され公正証書遺言が無効となったケースをご紹介いたします。
2 参考判例
①〔高知地裁平成24年3月29日判決〕
遺言者についての成年後見開始等の申立てにおいて、医師は遺言者には財産を管理する能力がないとの鑑定意見を作成しており、この鑑定は、それまで長期間にわたり遺言者の診察に当たってきた医師によるものであること、その内容が合理的かつ説得的であること、そしてその鑑定結果に基づいて実際に成年後見開始の審判がなされたことなどを考慮すると、その鑑定結果には高度の信用性が認められるとしたうえ、遺言者の遺言は公証人により作成されているが、公証人が遺言の作成に関与したというだけでは、遺言者の遺言能力があったはずとはいえないなどとし、本件遺言当時、遺言者には遺言能力がなかったとして無効とした事例。
②〔横浜地裁平成18年9月15日判決〕
遺言当時85歳の老人の公正証書遺言につき、遺言の数年前からの遺言者の入通院カルテ、介護施設での記録等に基づいて、公正証書遺言の前後の遺言者の生活状況、精神状態、担当医師らの診断内容等について比較的詳しく検討し、本件遺言当時、遺言者には記憶障害、見当識障害等があり、中等度から高度に相当するアルツハイマー型の認知症に陥っており遺言能力がなかったとして、公正証書遺言が無効であると判断した事例。
3 公正証書遺言は検索ができる
日本公証人連合会では、全国の公証役場で作成された遺言者のデータ(氏名、生年月日、公正証書を作成した公証人、作成年月日など。ただし遺言の内容は含みません)を一元的に管理する「遺言検索システム」を運用しているため、全国のどの公証役場の公証人からでもこれを検索することができます。
4 原本が公証役場に保管されるため紛失のおそれがない
公正証書遺言の原本は公証役場で保存され、遺言者にはコピーである謄本が交付されます。この謄本は紛失しても原本に影響はありませんし、遺言者が生存中に紛失した場合には遺言をした公証役場で再発行が可能です。
5 証人の確保が難しいときは公証役場で証人を手配してくれる
公正証書遺言を作成する際には、必ず2名以上の証人の立会いが必要ですが、どうしても証人が見つからない場合には、公証役場に相談すれば公証役場で証人を手配してくれます。
四、小括
①自筆証書遺言より公正証書遺言の方が法的要件において安心できるということに加えて、上記のような理由からも自筆証書遺言より公正証書遺言をお勧め致します。
②高齢者や特に判断能力が衰えている方が遺言書を作成する際には、細心の注意を払わなければ、せっかくの遺言書が無効となったり、逆にトラブルになったりする場合もあります。認知症などの不安がある方は、医師の診断を受けて自身に遺言能力があることを確認したうえで、弁護士などの専門家のアドバイスを受けて遺言書を作成されることをお勧めいたします。