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「タワーマンション節税」 発生から封殺強化への道のり

2023.12.01

タワーマンション節税の封殺強化!
謎の計算式がやってきた!
タワマン以外もとばっちり増税?

 

令和6年1月から居住用分譲マンションの評価方法が変わります。

 相続税・贈与税における不動産の価額は、実際の価格ではなく「財産評価基本通達(国税庁ルール)」に基づき計算されます。ここで計算される不動産の「相続税評価額」は、「実際の価格」の通常80%〜60%程度の価額に落ち着きます。この事実は納税者有利に働き、この程度の価格の乖離は国税庁側も容認しているというのが現状です。

 しかし昨今において国税庁が当初想定していなかった事態が発生しました。「タワーマンション(法律上の定義はないが、概ね20階建て以上のマンション)」の登場です。タワーマンション、特に都市部高層階の物件について既存の評価方法で「相続税評価額」を計算すると「実際の価格」の60%どころか40%にも満たないケースが頻発しました。「購入するだけで評価額・相続税額が大幅に圧縮できる」と、「タワーマンション節税」旋風が巻き起こります。

 国税庁はこの事態を黙って見過ごすわけにはいきません。

 元々国税庁には「通達6項」という評価上の切り札が存在します。「通達6項」とは「計算された評価額が『著しく不適切』と認められる場合、『時価(実勢価格)』を用いて相続税(贈与税)を計算する」というものです。しかし「通達6項」はあまりにも強力です。国税庁側においてもその運用には慎重にならざるを得ないという足枷がありました。ところが、令和4年4月に事態は大きく国税庁側に傾きます。「通達6項」の運用を争った裁判で国税庁勝利という最高裁判決が下ったのです。

 国税庁にしてみれば追い風ムードです。国税庁は「通達6項」を武器に過度な節税と判断される「タワーマンション節税」に攻勢をかけていきます。

 今回の評価方法の改正は、その現状にさらに追い打ちをかける内容となっています。

 「居住用分譲マンションについては、わざわざ「通達6項」を使うまでもなく評価方法そのものを見直して、『相続税評価額』が『実勢価格』の最低でも60%程度に収まるよう調整しよう」というのが今回の改正の流れです。

 

変更の対象となる不動産の範囲

 

 今回の評価方法の見直し対象は「居住用の区分所有財産(いわゆる分譲マンション)」限定です。

 ここで一つポイントとなるのは、タワーマンション以外の分譲マンションも評価方法変更の対象となるということです。「タワーマンションは持っていないから関係ないわ」とはならないのでご注意ください。

 逆に評価方法見直し対象とならないのは次のような物件です。

 

一棟全体を区分登記せずに所有している建物(いわゆる賃貸用マンション)
区分所有オフィス(オフィスビルの一部を区分所有しているもの)
二世帯住宅(親族間での使用については区分所有でも対象外)
低層の集合住宅(2階建て以下の建物)

 

新しい評価方法(興味のない方は読み飛ばしてください)

 

 国税庁から新しい評価方法の計算式が発表されました。ただし算式を見ても謎の暗号文にしか見えません。ここでは算式そのものには触れず考え方をご紹介します(参考までに算式及び国税庁の該当HPを文末に記載しています)。

 評価方法の考え方は、次の通りです(図表I)。

 まず国税庁は「従来の相続税評価額」と「実勢価格」がどの程度乖離しているかを示す「評価乖離率」という新しい指標を作成しました(※1)。

 次に「従来の相続税評価額」を「評価乖離率」に乗ずることで「理論上の市場価格」を算出します。この「理論上の市場価格」が今回の改正のポイントとなります。

 「改正後の相続税評価額」は「『理論上の市場価格』の100%~60%(最低評価水準)の範囲内」に必ず収まるように調整されることになります。

 

評価方法変更による影響

 

 今回の評価方法の変更が実際どの程度の評価額に影響を及ぼすかは、対象となる物件次第です。私もいくつか計算しましたが、最大(想定築2年・45階)で既存評価額の2・4倍程度といったイメージです。築年数が30年以上で10階未満だと、既存評価額の1・1倍もしくは変更なしといった感触でした。

 例として、私の地元福岡市の一例をあげると次の通りです

 

築年数:6年、総階数:10階、所在階:8階
従来の評価額:2200万円
改正後評価額:3388万円
 (1・54倍)

 

 築浅・高層マンション・高層階になるほど今回の改正の影響を受けやすい傾向にあります。自身の相続税への影響が気になる方は、税理士等に依頼して試算してみることをお勧めします。

 

対策と留意点

 

 評価方法が変更されるのは、令和6年1月1日以降の相続及び贈与です。令和5年中の贈与については、既存の(低いままの)評価方法により計算されます。令和5年中に相続時精算課税贈与を実行すれば、既存の評価額を固定化させることも理論上は可能です。ただし上述した通り、「通達6項」は令和5年中の贈与でも発動可能です。また、不動産贈与は相続の場合に比べて登録免許税や不動産取得税の負担も増加します。

 令和5年内の駆け込み贈与をご検討中の方は、税理士等の意見も取り入れたうえで慎重にご判断ください。

 

 今回の改正は、分譲マンションの評価額が上方修正されるというお話でしたが、不動産の節税効果が無くなるという話ではありません。過度な節税を制限して、本来の80%~60%程度の評価に戻そうというだけです。依然として、不動産の節税メリットは健在です。

 一方で、今後は「過度な節税については『通達6項』も念頭に厳しく対処していく」という国税庁の思惑も感じ取れます(これは分譲マンションに限りません)。

 今後、相続税対策として不動産購入を検討される場合は、「実勢価格の6割位が限度」ということをより強く意識する必要が高まったと感じます。

 

※1 

「物件の築年数・総階数・所在階数・敷地持分狭小度の4要素(謄本情報より抽出算定可能)」を国税庁が統計学的手法を用いて編み出した計算式に当てはめることで誰でも計算できます。なお、近く国税庁が計算用ホームページを開設予定です

 

◦図表I 〔従来の相続税評価額〕×〔評価乖離率〕=〔理論上の市場価格〕

改正後評価額

〔理論上の市場価格〕の100%~60%以内に収まるよう調整

例 〔理論上の市場価格〕が1億円のケース

➡「改正後評価額」は1億円~6,000万円(最低評価水準)内に収まるように調整

①〔従来の相続税評価額〕が3,000万円の場合

 3,000万円<6,000万円 ∴改正後評価額=6,000万円(最低評価水準〔下限〕)

②〔従来の相続税評価額〕が8,000万円の場合

 1億円≧8,000万円≧6,000万円 ∴改正後評価額=8,000万円(調整なし)

③〔従来の相続税評価額〕が1億500万円の場合

1億500万円>1億円 ∴改正後評価額=1億円(理論上の市場価格〔上限〕)

注)物件が貸家の場合は、上記の評価額から借家権等の減算を行います。

 

参考(改正後評価額の算式)

◦改正後評価額=改正前評価額×補正率

   補正率:評価水準0.6未満⇒補正率=評価乖離率×0.6

       評価水準0.6~1⇒補正率=1

       評価水準1超⇒補正率=評価乖離率

注)評価水準=1÷評価乖離率

 ・評価乖離率=A+B+C+D+3.220

  A 区分所有建物の築年数(1年未満の端数は1年)×△0.033

  B 総階数指数※×0.239(小数点以下第4位切捨て)

     ※総階数指数=総階数÷33(小数点以下第4位切捨て、1を超える場合は1)

  C 占有部分所在階×0.018

  D 敷地持分狭小度※×△1.195(小数点以下第4位切上げ)

    ※敷地持分狭小度=敷地権面積÷占有部分面積(小数点以下第4位切上げ)

 ・居住用の区分所有財産の評価について(法令解釈通達)|国税庁 (nta.go.jp)

  https://www.nta.go.jp/law/tsutatsu/kobetsu/hyoka/231004/index.htm

 

 

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筆者紹介

山方越志税理士事務所 
山方越志

お世話になります。税理士の山方と申します。私は税務の分野で長年にわたり、幅広い知識と経験を積み重ねてまいりました。

相続実務においては、相続税の知識はもちろんの事、周辺税法・民法・会社法・社会保険料及び不動産・金融といった実に様々な知識からの多角的な検討が必要となります。その中でも、とりわけ重要なのはご家族皆さんのお気持ちの部分だと、仕事のたびいつも痛感させられます。
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