個人事業を相続で受け継いだ場合、消費税の納税義務も引き継がれます。一方で、生前に代替わりした場合には、何故か新規開業扱いとなり原則として2年間は消費税の納税義務がありません。日本の税制の欠陥といえばそうですが、逆に言うとうまく使わない手はありません。
繁盛店や農業などで、高齢になった先代名義のまま申告しているケースがやや散見されますが、消費税的には非常にもったいないです。実質的に子や孫が経営しているのであれば、早く代替わりした方が消費税は安くなります。
もちろん、株式や不動産など資産から生じる所得については資産そのものを贈与か譲渡しないと所得は移転できません。(所得税法第12条「実質所得者課税の原則」、及び同通達12-1,12-2による。)
インボイス制度が始まって事態はさらにややこしくなっております。インボイス登録をしていた人が死亡した場合、死後4ヶ月以内を「みなし登録期間」として亡くなった人のインボイス番号を使えることになっております。では5ヶ月目からはどうするの?という話になりますが、それまでに誰が事業を承継するかを決めてインボイスの新規登録をしてください、というのが現在の国のスタンスになります。結構ハードル高めです。
ただの代替わりであれば、そのような問題は回避できます。時期を自分で決められるので、慌ててインボイス登録する必要はないです。取引先さえ問題なければ、インボイスの登録時期を選ぶことだってできます。また、基準期間(2年前)の売上は基本的に0円となるので、当面は簡易課税制度も使えます。
問題があるとすれば、事業用資産をどう承継するかという点です。売却にしても贈与にしても、少なからず税金が発生する可能性があります。特に売却については消費税がかかるので注意が必要です。不動産などは親から借りることにして、売却や贈与・低額譲渡などを組み合わせれば税金を低く抑えられるかもしれません。
また、何億円もするような機械がいっぱいある工場のような場合は、納税猶予の制度を使った方がよいかもしれません。しかし、それくらいの規模であれば法人成りしているケースの方が多いと思われます。
相続の時の消費税にはイヤな思い出があります。もともと車の整備工場をやっていた方が亡くなられて、相続人が工場を相続したことがありました。当然、亡くなられた方は消費税を払っていましたが、相続人が工場は承継した一方、車の整備事業は引き継がずに第三者に工場を貸しました。最初に依頼していた税理士は「消費税の納税義務あり」として工場の家賃収入に対する消費税を申告していました。次の年は私にご依頼いただいて、条文を読む限り消費税の納税義務はないと判断したので消費税の申告をしなかったら税務署から電話がかかってきました。こちらとしては、「消費税の納税義務は『被相続人の行っていた事業を継続して行うため財産を承継した場合」に生じるのであって、今回のケースでは該当しない」ということを強く主張したのですが、議論はなかなかの平行線をたどりました。最終的には私が「更正でも決定でもしてください!(更正や決定通知があれば不服申立して争いますよ、という意味です。)」と言って終わりました。1年分は税務署が取ったけど、1年分は払わなかったという痛み分けです。当時は落としどころとしてその辺りかなと思っていましたが、最初の1年分について還付請求すれば勝てたのではないかと今になって少し後悔しています。
相続の際の消費税についても十分気を付けておきたいものです。